2011年4月12日火曜日

夏目漱石「吾輩は猫である」再読私的ノート(4の3) 明治の紳士、鈴木藤十郎の極楽主義

「猫」(四)は面白い個所が多い。
今回は「四」の三回目。
*
鈴木藤十郎は巧に苦沙弥氏を説得し、何とか寒月に対し博士論文執筆を勧め、金田の娘を貰う意思確認をする事で折り合いをつける。
(この辺が、苦沙弥氏のヒトの良いところ)
*
しかし、そこに、鈴木が最も恐れているブチ壊し屋の迷亭がやって来る。
鈴木は迷亭の前では寒月の話題を出したくない。
*
ここで、明治の紳士、鈴木藤十郎氏の「極楽主義」に関する解説がはじまる
*
「可成(なるべく)こゝは好加減(いゝかげん)に迷亭の舌鋒をあしらつて無事に切り抜けるのが上分別なのである。
鈴木君は利口者である。
入らざる抵抗は避けらるゝ丈避けるのが当世で、無要の口論は封建時代の遺物と心得て居る。
人生の目的は口舌ではない実行にある。
自己の思ひ通りに着々事件が進捗すれば、それで人生の目的は達せられたのである。
苦労と心配と争論とがなくて事件が進捗すれば人生の目的は極楽流に達せられるのである。

鈴木君は卒業後此極楽主義によって成功し、此極楽主義によつて金時計をぶら下げ、此極楽主義で金田夫婦の依頼をうけ、同じく此極楽主義でまんまと首尾よく苦沙弥君を説き落して当該事件が十中八九迄成就した所へ、迷亭なる常規を以て律すべからざる、普通の人間以外の心理作用を有するかと怪まるゝ風来坊が飛び込んで来たので少々其突然なるに面喰つて居る所である。

極楽主義を発明したものは明治の紳士で、極楽主義を実行するものは鈴木藤十郎君で、今此極楽主義で困却しつゝあるものも亦鈴木藤十郎君である。」
*
しかし、迷亭の話題が迷走し、うまく金田事件から離れたところで、鈴木は退場。
迷亭も退場。
*
*
「極楽主義」
どこか少し物足りない感じがする。
上滑りな明治の開化を批評するような、もう一押しがあれば尚いいのに・・・。
*
*
その(五)に続く

0 件のコメント: