2012年5月13日日曜日

ナオミ・クライン『ショック・ドクトリン』を読む(5) 「第14章 米国内版ショック療法 - バブル景気に沸くセキュリティー産業 -」(その一)

東京 北の丸公園 2012-05-11
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ナオミ・クライン『ショック・ドクトリン』を読む(5)
「第14章 米国内版ショック療法 - バブル景気に沸くセキュリティー産業 -」(その一)
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「あの男は血も涙もないやつだ。それだけはたしかだね。」
-1971年、リチャード・ニクソン大統領、ドナルド・ラムズフェルドに言及して

「今やセキュリティー・ビジネスは、インターネット・ビジネスの投資が隆盛期を迎えた一九九九七年の段階に達しただろう。あの頃は社名の頭に「e」を付けただけで会社の株価はうなぎ上りになったものだが、今ならさしずめ「フォートレス(要塞)」が合い言葉だろう。」
- ダニエル・グロス、『スレート』(2005年6月)
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ラムズフェルド国防長官の野望
ドナルド・ラムズフェルド:Wiki

2001年、68歳でジョージ・W・ブッシュ政権の国防長官に就任。
以降、「人員削減の使命に燃えたCEO長官として冷血な殺し屋のごとく振る舞ってきた」。
その後、彼の「改革」プロジェクトは大いに物議を醸し、退役将官8人による辞任要求という事態に至り、2006年の中間選挙直後に辞任へ追い込まれた。


国防長官就任までの20数年間、「ラムズフェエルドは数社の多国籍企業でトップや役員の職に就き、大胆な企業合併買収劇の音頭を取ったり、非情なリストラを強行したりしてきた。九〇年代には、デジタルテレビメーカーのCEOをはじめ、「Eビジネスのソリューション」を謳うIT企業の役員、そして鳥インフルエンザ治療薬とエイズ治療薬の独占的特許を有するSF的なバイオ技術に特化した医薬品会社の会長を兼任し、ニューエコノミーの旗手をもって任じていた。


二〇〇一年、ジョージ・W・ブッシュ政権の閣僚に加わったときのラムズフェルドは、二一世紀の軍事を改革しようという個人的な野望に燃えていた。
戦争を物理的なものから心理的なものへ、肉体を駆使する戦闘から派手な見世物へ、そして今までよりはるかに儲かるものに変えていこうというのだ。」


2006年、「国防長官解任を発表した際、ブッシュ大統領がラムズフェルドの最大の貢献として挙げたのは、イラク戦争あるいはより広い意味での「テロとの戦い」での功績ではなく、「徹底した改革プロジェクト」だった。
「この分野での彼の貢献は大きな注目を集めることはなかったが、彼の着手した改革は歴史的なものとなった」とブッシュは述べた。」

ラムズフェルドの「改革」とは
「二〇〇六年四月、彼はこう語っている。
「軍は今、大規模な近代化のまっただなかにある。米陸軍は従来の師団方式からモジュール式旅団戦闘チーム体制へと移行しつつあり、(中略)実戦中心の戦闘から衝突回避の戦闘へ、そして相互運用性へ、そして今や相互依存性へと向かいつつある。これを遂行するのは容易なことではない」。
だが、このプロジェクトは彼の言葉から想像されるほど複雑なものではなかった。
小むずかしい専門用語の裏にあるのは、ラムズフェルドが実業界で関わってきた外部委託システムにおける革命を米軍の中枢で起こそうという、ごく単純な企てにすぎなかった。」

1990年代の花形経営モデル、ナイキ方式とマイクロソフト方式、「空洞企業」
ナイキ方式:「自社工場は持たず、商品の生産は請負業者やその下請業者の複雑なネットワークに委託し、持てる資源はデザインとマーケティングに投入するという経営モデル」
マイクロソフト方式:「企業の「中核能力」を担う従業員株主による中央管理部門だけを維持し、郵便仕分け室の管理からプログラミングに至るその他の仕事すべてを派遣社員に任せるスタイル」。
「会社には実体がほとんど残らないことから、このような徹底した構造改革を進めた会社は「空洞企業」とも呼ばれた。」

ラムズフェルドは、国防総省にもこれに匹敵する改革が必要だと確信していた。
「このミスターCEOは(中略)自ら指揮を執って成功させた実業界の構造改革を国防総省にも導入しよう」とした(『フォーチュン』)。
「企業が上場と正規労働者という負担を切り捨てたのに対し、軍は少数の中核スタッフを残して大規模な正規軍を縮小し、予備役や州兵のパートタイマーを安く雇えばいいとラムズフェルドは考えた。
その一方で、ブラックウォーターやハリバートンといった民間企業と契約して、リスクの高い運転業務から拘束者の尋問、ケータリング・サービス、医療保健に至るまでの業務を委託する。
企業が雇用経費を削ってデザインやマーケティングに回したのに対し、国防総省では兵員や戦車の数を減らして、民間部門から最新の衛星システムやナノテクノロジー技術を導入する金にあてればいい - というわけだ。」

2001年9月10日、数百人の国防省上級職員に対するラムズフェルドのスピーチ
「われわれはこの敵について知っているし、その脅威もわかっています。強固な敵に抵抗する際の常として、われわれは固い決意を持ってこの敵と向き合わなければならない。(中略)今日ここに、官僚主義との戦いを宣言します」


「ラムズフェルドは税金の無駄遣いを憂えていたわけではない。現に、国防総省予算の一一%増加を議会に申し入れたばかりだった。
大きな政府と大企業が力を結集して資金を国民ではなく企業に再分配するという反革命的なコーポラティズムの原則に従って、省内の人件費をできるだけ削減し、膨大な公的資金を民間企業に直接送り込もうというのが彼の考えだった。


ラムズフェルドが”戦争”を宣言した目的はまさにそこにあった。
「世界各地の米軍基地の司令部も含め」、すべての部門は一五%の人員削減を行なう必要があると彼は述べた。」


ラムズフェルドは、上級スタッフに、「民間に委託したほうがうまくいき、かつ、より安くすみそうな業務を洗い出すよう」に命じていた。


「なぜ国防総省は給料を支払う経理部をいまだに内部に持つ時代遅れの組織なのか。
保管倉庫を効率的に運営する業界が存在するのに、国防総省はなぜこんなに多くの倉庫を所有し、管理するのか。
どうして世界各地の米軍基地では自分たちでゴミの収集や床掃除を行なっているのか。どこの企業でもやっているように、そんな仕事は民間に委託すればいいではないか。
もちろんコンピューター・システムの管理ももっと外注に回せるはずです」
なぜこんなに多くの医者がいるのか。
「これらニーズのいくつか、とりわけ戦闘とは無関係の一般医療あるいは専門医療なら民間部門に任せたほうが効率的ではないか」。
軍人やその家族の住居は、「官民のパートナーシップ」で建てればいい。


ラムズフェルドは、国防総省は中核能力である「戦闘活動」に専念すべきで、「それ以外の業務のすべて、つまり周辺活動に関しては効率的かつ効果的に行なうことのできる業者を探すべき」と、主張した。

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