2012年5月31日木曜日

生活保護の扶養義務 運用厳格化を危惧 申請抑制、餓死・孤立死招く(「東京新聞」)


東京新聞
生活保護の扶養義務 運用厳格化を危惧 申請抑制、餓死・孤立死招く 
2012年5月31日
高所得のお笑いタレントが民法の扶養義務を果たさず、母親が生活保護を受給していると指摘された問題を受け、厚生労働省は、扶養が困難な理由を証明する義務を親族に課すなど、運用を厳格化する方針を打ち出した。
当事者や支援者らからは「生活保護から住民を遠ざけ、餓死や孤立死を増やしかねない」と懸念の声が上がっている。 (稲田雅文)


 「悪いイメージで報道されるたびに、受給者への差別や偏見が広がらないかと不安を感じます」。
精神疾患があって働けず、生活保護を受給する千葉県の三十代女性は、制度への逆風に眉をひそめる。
 病気の悪化で仕事を辞めた。次の仕事が見つからないまま貯金が尽き、自治体の福祉事務所に駆け込んだ。職員は状況を詳しく聞いた後「若いから仕事はある。頑張って」と言うだけで、申請手続きをしてくれなかった。支援団体に相談し、後日、同行してもらうとすんなり申請できた。
 扶養できる親族がいる場合、生活保護よりも扶養が優先される。申請時に親族のことを詳しく聞かれた女性は、親族との関係が悪いことを説明した上で生活保護を認められた。女性は「いろいろな家族のかたちがある。連絡を取りたくない人もいる」と訴える。


  「生活保護を申請しようとしても女性のように断られるケースは多い。反貧困ネットワーク事務局長の湯浅誠さんは「扶養義務の運用が強化されると、申請を抑制する動きが強くなる恐れがある」と懸念する。
 湯浅さんは、暴力団関係者による生活保護の不正受給事件が表面化し、旧厚生省から支給を適正に決定するよう求める通知が出た一九八一年と、今の状況が「非常に似ている」と指摘。「行政が申請を受け付けなくなり、八七年には、札幌市白石区で生活保護の相談をしていた母子家庭の母親が餓死した事件が起きている」と警鐘を鳴らす。


 市民団体の笹島診療所(名古屋市)で生活保護申請の支援をしている藤井克彦さんは「現在でも、生活保護の申請時に扶養できる親族がいないか十分照会をしているはず」と厚労省の方針に疑問を投げかけ、「必要なのはケースワーカーの増員ではないか」と語る。
 受給者に家庭訪問などをして生活状況をチェックする自治体のケースワーカーは一人で八十世帯を担当するのが適正。実際には受給者増で、政令指定都市を中心に百世帯以上を担当するところも多く、収入の確認や就労支援などきめ細かな対応ができていない。


 弁護士らでつくる生活保護問題対策全国会議は緊急声明を発表。厚労省による厳格化の方針は、DV被害者や虐待経験者も少なくない生活困窮者に申請の抑制を招くとし「生活保護制度が置かれている客観的な状況、受給者の実態に目を向け、冷静に議論すべきだ」と呼び掛けた。


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