2012年7月23日月曜日

「米国のいうことならなんでも聞く・・・、むしろ先手をうって米国の気に入ることをやる、それが野田・・・政権であり、その従米的体質は自民党以上」(森田実)


農業共同組合新聞
総力特集TPP 考えよう 議論しよう この国のかたちを
対談
政治評論家・森田実氏
北海道大学名誉教授・太田原高昭氏

対談「戦後史踏まえれば...TPPは対米従属の集大成」 森田実氏・太田原高昭氏
・野田政権の従属体質は異常
・永遠の占領下に置かれて
・メディアの論調に変化
・TPPという名の毒薬
・経済団体の民主化図れ
・大規模経営は人減らし経営
・松下イズムはどこへ?
・広がった弱肉強食思想

 「米国のいうことならなんでも聞く、というよりは、むしろ先手をうって米国の気に入ることをやる、それが野田佳彦民主党政権であり、その従米的体質は自民党以上」と森田氏は論断する。その上、自民党と同じように「悪い点を訂正していく可能性も極めて低い」と話す。対談は太田原氏の進行で、TPPと政治・経済をはじめ▽大企業経営者の間に広がった「自分さえよければ」の思想と弱肉強食の市場経済▽日本指導層の堕落▽松下政経塾の評価▽EUの農政と政権交代、などへと広がった。

◆野田政権の従属体質は異常
 森田 
 (略)特に野田政権になってからはTPPについて、国民も国会も何も知らない間に、恐らく内閣さえも知らない中で、米国に受け入れの意向を伝え、いつ正式に受け入れを表明するか、発表の時期を選んでいるというとんでもない錯誤の状態をつくり出しています。
野田政権は米国のいうことなら何でも聞く、むしろ先手を打って米国の気に入ることをやるという政権になっています。これは異常すぎる事態です。

◆永遠の占領下に置かれて
森田 
(略)
私は、TPPはそうした対米従属の集大成ではないかと思っています。TPPの目的は日本の富を米国が自由に壟(ろう)断できるという状況をつくることになるのではないかと心配です。
(略)

◆メディアの論調に変化
(略)
森田 
(略)
最近の政治の現状はひどいものです。民主党政権と東京のメディア、経済界、中央官庁などはなんとなく、ひとかたまりになって日本の政治を引っ張っています。地方の人びとが「いまの政治はおかしい」と思うようになっているのは当然です。
(略)

◆TPPという名の毒薬
(略)
森田 
(略)
私は若いころから、経済界のリーダーにインタビューをたくさんしましたが、当時の経営者の大半は最も大事な雇用の安定を経営理念と考えていました
ところが80年代以後はそのような経営者が少なくなり、ここ10年ほどは自分や自分の企業が利益を得るためには容赦なくリストラで従業員を解雇し、海外への工場移転もやる経営者が増えました。日本の大企業経営者の堕落です。
私はそういう人たちのところへ行くと「あなた方は日本の経営者ですか」と問うています。
80年代以後、自由主義革命を推進する勢力はグローバリズムの旗を掲げて弱肉強食の市場経済を広げようとしてきました。日本も新自由主義革命の荒波を受け、大企業経営者の間に「自分さえよければ」の思想が広がりました。
彼らは日本国内の工場を閉鎖して海外に工場を建設し、企業だけの利益を求めて日本を離れます。率直にいうと日本人ではなくなるわけです。日本から出て行く人が、後に残る人に対し、毒薬であるTPPを飲みなさいなどという資格があるのかと私は問いかけています。また「あなた方は本当に日本人ですか」と批判しています。

◆経済団体の民主化図れ
太田原 法人税を下げなければ海外に本社を移すというような人たちは日本人とはいい難いですね。この人たちは国益を代表していません。代表しているのは地場資本、中小企業、農業など日本から逃げようのない人たちだと思います。
森田 大企業のリーダーたちは日本経団連を握り、政府の審議会の多くにポストを持って、あたかも日本国民のリーダーのような顔をしてえらそうに発言していますが、実は日本の資本主義はもう大企業資本主義ではなくなりつつあるのです。
大企業は円高や電力危機を理由に海外移転を進めております。日本国内の主導権は中堅企業に移り中堅企業が経済の担い手に変わってきています。
中堅企業は日本にしっかりした足場を持ち、雇用を守っていこうとしている上、経営者は法的には無限責任を負っています。命がけなんです。しかし大企業経営者はそんな責任を負いません。大多数はサラリーマン経営者です。
私はコスモポリタン化した経営者はもはや去るべきだと思いますし、そんな大企業経営者は日本商工会議所からは引退すべきだと思っています。
太田原 原発事故で東京電力の社長が責任を問われた時に経団連は全く動かなかった。やはり責任感を無くしているようです。さて経済では中堅企業への期待がありますが、政治的に期待できる点はどうでしょうか。
森田 民主党は根無し草になってしまいました。政権交代以来、地方選挙で連敗を重ねるなどして、組織の基礎が草の根から消滅しつつあるという状況です。
国会の議席数は大きいけれど、国民生活からは浮いてしまった宇宙船のような存在になってしまっているのです。
自民党のほうも地方議員が減って根無し草に近い状況になり、2大政党は形骸化して草の根の意見を代表できなくなっています。
両党が根を張るためには国民が求めていることをしゃにむに実行しないとだめですが、両党の政治家の能力は急速に衰退しています。
太田原 欧州の農業政策が手厚いのはイギリスで言えば保守党と労働党が政権交代を繰り返してきたからだと思います。資本家の党と労働組合の党が伯仲する時、決定権を握るのは中間層の農民票です。これを取り込むため二大政党がともに農業政策を手厚くしてきた、その結果が今日のEU農業になっていると私は見ています。
そこで日本の政権交代に期待したのですが、現実には民主党の崩れ方にがっかりしています。しかし農業への希望はまだ失っていません。

◆大規模経営は人減らし経営
(略)
森田 
(略)
漁業にしても宮城県知事は「資本主義を持ち込みたい」といいますが、これは伝統や文化を知らない者のいうことです。愚かな考えです。

◆松下イズムはどこへ?
(略)
森田 宮城県知事は松下政経塾の出身ですが、私は80年代始めに塾(茅ヶ崎市)に取材に行き調べてみまして〈この学校はアメリカ政府のために働く者を養成するアメリカ製中野学校(注1)のようなものではないかと感じました。のちに問題を残すだろう〉と思いました。
今では国会議員の中に総理大臣まで含めて塾の出身者が何十人もおります。民主党がとくに多いのですが、自民党の中にも多くいて両党で協力し合っています。
教育内容は、自由主義、市場原理主義、弱肉強食主義の日本における推進で、非常に危ない人間を生産しています。伝統文化などの教育はしていませんでした。
太田原 松下幸之助さん自身は“報徳”の実践者ですが、どこでどう食い違ったのでしょう。
森田 パナソニックは最近、大量の人員整理を決めました。不況でも従業員解雇はしないとした松下イズムはどこへいった?というところです。
松下さんは後継者を育てることで失敗したのではないかと思います。だから松下イズムとは全く別のものが生れて、米国的弱肉強食主義の信奉者たちを育てているんだろうと思います。政経塾出身者の思想は「自分さえよければ主義」です。
太田原 そういう道は間違いなく日本を滅ぼしますね。
森田 日本の伝統や文化は古くて新しい時代に合わないから、これを変革していかないと日本は立ち行かなくなるという日本の伝統を軽視する論議は80年代から広がりました。
そういうことをいうのはたいていがフリードマンという米国の経済学者の弟子です。フリードマン(注2)は破壊者です。その論理を日本で実行すれば日本社会は崩壊してしまいます。
しかし東京の有名大学で経済学部の教授をしている人の多くは最近はほとんどが米国でPhD(学位)を取っており、フリードマンの弟子たちです。

◆広がった弱肉強食思想
太田原 TPPについては政治学者はかなり発言しますが、経済学者は反対論も賛成論も余りいわないという状況があります。大事な変革期に発言しないというのは知の退廃ではないかと、私は逆に危機感を持ちます。
森田 彼らは公共経済学とか政治経済学といった総合的な学問はやっていません。金融論などといった個別の学問分野にのみ取り組んでいます。
しかも“自分さえよければ主義”という間違った思想に取りつかれてしまっていますから損なことはやらないのです。
政治家にも損か得かで物事を判断する人が増えました。これは日本指導層の堕落だと思います。
太田原 最後に、森田さんの農協論をお聞かせ下さい。
森田 基本的にいえば農協支持です。農協は日本国民のために役に立っていると私は判断しています。
最近、農協が草の根ではじめていることはすごいことだと思います。ファーマーズマーケットについては、すでに話しましたが、社会に根付いてきています。社会の真の新鮮で安全な食料の供給源になっています。
どこの野菜も果物も非常に品質が高くなっています。こうした努力が花を開きつつあるのではないでしようか。その努力をみんなで評価し合い、経験を交流し合う方向に向かっています。農協の中央団体もそれを応援する姿勢であると思います。マスコミはこのような農協の地道な努力に目を向けるべきです。

注1:〈陸軍中野学校〉1938年に防諜研究所として新設。当初はスパイ技術養成機関だったが、太平洋戦争開戦後はゲリラ戦術教育機関に変わった。
注2:〈ミルトン・フリードマン〉米国のマクロ経済学者。マネタリズムを主唱。市場原理主義者たちのリーダー。1976年にノーベル経済学賞受賞。

対談を終えて
森田さんの評論は、かねてから核心をつく分析と正確な見通しで定評があり、私も大のファンでした。しばらくテレビでお目にかかっていなかったのですが、とてもお元気で安心しました。穏やかな紳士ですが、話が始まるや舌鋒火を噴く憂国の弁に魅了されました。 民主党は国民生活から浮き上がった宇宙船、松下政経塾はアメリカ版中野学校、コスモポリタン化した大企業経営者は日本人といえるかなど卓抜な警句を交えた快刀乱麻の発言に、このような人々がこの国を壟断していることへの怒りが込められていました。
一方でTPP参加反対運動への目配りも確かで、その影響力が日増しに拡大していることを周到に指摘されています。また農業や農協の草の根での確かな取り組みについて楽しそうに語られたのが印象的で、森田さんの目指すこの国のかたちの一端がみえたように思いました。ご多忙な中での限られた時間でしたが、とても充実したお話が聴けました。(太田原高昭)
(2012.07.12)

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