2012年12月22日土曜日

生活保護費削減へ 真っ先に切り捨てていいのか(愛媛新聞社説)

愛媛新聞
特集社説2012年12月20日(木)
生活保護費削減へ 真っ先に切り捨てていいのか

 「『自助』『自立』を第一に、『共助』と『公助』を組み合わせ、弱い立場の人にはしっかりと援助の手を差し伸べる」―そんな公約を掲げた自民党の政権復帰で、生活保護費の給付水準が引き下げられる見通しとなった。
 安倍晋三自民党総裁が「いの一番」に取り組むのは景気対策。本年度補正予算は公共事業拡大を中心に10兆円規模の大盤振る舞いを目指すが、当然財源は乏しい。かき集めても確保できるのは5兆円程度とされ、不足分は「国債の追加発行」―つまり借金と、衆院選の公約で「10%引き下げ」と明記した生活保護費の削減、公務員の人件費縮減などにまず着手するという。
 景気対策と、100兆円を超え膨らみ続ける社会保障費の抑制は、どの政権にとっても重要な課題には違いない。ただ、非正規労働者が35%を超えるなど雇用の不安定化が進み、少子高齢化で将来に不安を抱える今の社会情勢に照らせば、「自立」の名の下に「最後の安全網」である生活保護費を真っ先にターゲットにして、公共事業に注ぎ込む手法には懸念を禁じ得ない。
 景気対策の効果が波及し、生活保護の受給者層に届くまでには長い時間、大きな時差がある。政権が変わっても、間をつなぐ息の長い支援を途切れさせてはならない。
 生活保護費の不正受給防止など「適正化」には異論はないが、それだけで受給者増の根本にある貧困問題が解決するわけではない。保護費増を「隠れたばらまき」(自民党生活保護プロジェクトチームの世耕弘成座長)とみるのでなく、抑制し難い今の社会の仕組みをどう変えていくか、また社会保障費や他の支出で削減できる部分がもっとないのかどうかも含め、議論を深めてもらいたい。
 生活保護受給者は9月に213万人を超え、過去最多。保護費も年々増えて、12年度予算では国と地方を合わせて約3兆7千億円(うち国費2兆8千億円)に上る。
 自民党は「適正化によって数千億円削減できる」と主張し、保護費の8千億円カットを掲げた。数年かけて段階的に減額し、「手当より仕事」を基本に就労支援を強化する案を検討している。しかし実際、受給者の世帯別では65歳以上の高齢者世帯が全体の4割を超える。先に手当を減らして「仕事を」と言っても、そう簡単なことではない。
 前回政権交代の一因となった年金問題も、解決の道筋は見えないまま。社会保障制度全体の絵を急いで描き直さなければ、多くの人が制度の谷間にこぼれ落ちる。「自助」ばかりを強調するのではなく適切な「公助」によって安全網を厚く、多重にし、結果として受給者が減っていく社会を再構築してもらいたい。

0 件のコメント: