2013年2月6日水曜日

忌野清志郎『瀕死の双六問屋』を読む(その4) 「腰の引けたイクジ無しどもがこの世の中を動かしている。」

江戸城(皇居)梅林坂 2013-02-05
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忌野清志郎『瀕死の双六問屋』を読む(その4)

第二十二話 また放浪の旅が始まる
 (略)
 ときどき事件を起こしたこともあったけど、そんな時にはわかる事がある。
今まで友達ヅラしてた奴がずるがしこい商人だったとか、いつでもお前を助けてやるって言ってた奴が何の連絡もしてこない、いつもエラそうな事言ってる奴がただの田舎者だったとかね。
ネガティブな奴とポジティブな奴はまるで行動の仕方が変わってくるのさ。・・・・

次はタブーと戦うキヨシロー

第二十三話 様々な制約と規制の中で、がんばれ外資系の会社よ!
・・・世界を旅したが、ニューヨークもロスもロンドンもメンフィスもナッシュビルもニューオリンズもハワイも全部イナカだったよ。
もちろん日本もね。
イナカではいろんな問題がもち上がるもんだ。
それでみんながドキドキワクワクしたりもするさ。
でも、所詮イナカはイナカだ。
ヒヤクショーがのさばってるってことさ。
こんな言い方に頭に来る奴もいるだろうけど、俺がガキの頃にはみんなそんなことを普通に会話してたんだよ。
いろんな禁止用語が出てきたのは昭和の経済成長でいい気になった奴らのせいだ。
ブラック・サバス(’70年代のロックバンド)が部落差別に聞こえるとか、伝説のギタリスト山口富士夫のバンド「村八分」っていうバンド名が禁止用語だとか、どいつもこいつもオエラガタがすべてやばい言葉を禁止禁止にしちまったのさ。
生々とした生の言葉を全部言えないようにしたんだ。
そのころから、この国はおかしくなっていった。
ヤクザのことをヤっちゃんと言ってみたり、SEXのことをエッチと言ってみたりするようになったのだ。
そして人々はどんどん軽くなっていった。
小学生なのに自殺するなんて俺には信じられない。
死も学校も親もカッパ・エビセンやキャラメル・コーンみたいに軽くなったのさ。
総理大臣がケーサツにとっつかまってみたり、政治家が民衆よりもバカに見えてきたのだ。
警察ももはや偉そうには見えなくなった。
いろんな友達が大麻やコカインやヘロインでとっつかまった。
そして、出てきてから警察がどんなに汚い奴らか聞かされた。

 俺は右翼かも知れないと思う。
丹下左膳の格好をして刀をさしているとそんな気にもなる。
志をつらぬくという気持ちを日本人が持っていたら、すばらしい世界が来るんじゃないかと思う。
俺は右でも左でもかまわないんだ。
そんなことどーでもいいんだ。
右にどんどん行ってみろ。
やがて左側に来ているのさ。
地球は丸いからね。
それよりも二人並んでいると俺の右側は君の左側だったりもするのさ。
そんなことより俺は、人々の心の中に芯が一本通ってりゃいいんだ。
それが一番大切なことだと思ってる。

 俺たちの「冬の十字架」をぜひ君の店に置いてくれないか。
外資系のレコード店だってことはわかってるけど、なにもビクつく必要はないだろう?  
大丈夫だよ、もう法律で決まったことだ。
これからはどんなアレンジでも国歌を自由に歌えるようになったんだよ。
ここで敬遠のフォア・ボールはないだろう。
堂々と直球で勝負する場面だぜ。
外資系の会社ってそんなに日本では肩身が狭いのかい? 
ポリドールくんも外資系だけどね。
社長は「うちは外資系だから、何しろ外資なんでね・・・、その、つまり外資系なので・・・」それしか言わなかった。
そんなこと繰り返されたって俺にはわかんねえよ。
いったい何のことを言ってるんだい? 
あんた日本人なんだろ、筋を通すってことぐらい知ってるよな。

キヨシローの解説による「冬の十字架」

忌野清志郎 Little Screaming Revue
冬の十字架 SWIM RECORDS/発売中
まさか、という感じ(*注)でしたね。
もう情けないっす、業界が。
それで”ダメだこりゃ”と思って、インディーズで出そうと。アルバムとしては、けっこう本音が出ている作品かもしれませんね。
ジャケットは僕の国立の実家なんですよ。
当時、空き家になってたんだけど、家具もほとんどその場にあったもので。
トロフィーはRCが売れだした頃に「プレイヤー」の人気ヴォーカリスト部門で2~3年間1位だったんですけど、そん時にもらったやつ。

(*注)まさか、という感じ
1999年8月、「君が代」が入っているという理由で「外資系」のポリドールがアルバム「冬の十字架」の発売中止を決定。
結局インディーズのSWIM RECORDSからの発売となった。
折しも「国旗国歌法制化」騒ぎの真っ最中。
ごたごたのさなか、当時の「官房長官」が「君が代をうたうこと自体に問題はない」というコメントをわざわざ発表したのには笑えたが、実際キヨシローは「パンクふうのアレンジ」で「すなお」に「うたっている」だけである。

第二十四話 俺を笑わせてくれないか
・・・みんなが聴いてるからとか、これが流行ってるからとか、TVでよくやってるからとか、そんな理由でムダ金をはたいてレコード屋でCDを買うなんて、つまらないぜ。
他人と趣味が同じなんてつまらないぜ。
ひとと同じじゃ、どんなに大志を抱いていても一般人の中にうずもれちまうだけさ。
誰もが大志を抱く必要もないけど、お金のムダ使いで流行を買うのはバカだよ。
そーいえば、真心ブラザーズの曲で「きいてる奴らがバカだから」っていう名曲があったな。

 昔のことなら笑いながら話せる。だって本当に楽しいことばかりだったから。
未来のことなら笑いながら話せる。だって夢のようなことを実現できると思うから。
でも今の気持ちを聞かれたら、僕はつまらないことしか言えない。
ずっとそうだった。現実に関してはつまらないことしか言えない。
何も想い通りには行かない。
何も変わりゃしない。
腰の引けたイクジ無しどもがこの世の中を動かしてるのさ。
もう一度言おう! 
腰の引けたイクジ無しどもがこの世の中を動かしている。
これじゃ、みんなカラに閉じこもって昔のことを想い出して笑うしかないのさ。
あの娘に愛を告白したかったんだ。
でも言えなかった。
僕はずっとイクジ無しなんだ。
それも今では苦くて甘い想い出さ。
でも愛を告白したかったんだ。
でも言えなかった。
わかったよ。わかった、わかった。
つまり、あんたはダメだってことさ。
それでいいじゃん。
だけど、それで迷惑かけた人がいるのならあやまった方がいいと思うよ。
もう一度笑うためにはその前に迷惑をかけた人を笑わせてあげないとね。
わかるかい、世の中はそういうもんだ。
スジだけは通してくれよ。
さあ、笑わせてくれよ、ベイビー。

「 昔のことなら笑いながら話せる。だって本当に楽しいことばかりだったから。
未来のことなら笑いながら話せる。だって夢のようなことを実現できると思うから。
でも今の気持ちを聞かれたら、僕はつまらないことしか言えない。」
ってカッコ良すぎないか?

そして、
「腰の引けたイクジ無しどもがこの世の中を動かしてるのさ。
もう一度言おう! 
腰の引けたイクジ無しどもがこの世の中を動かしている。」
というのである。

第二十五話 子供には必ず親がいるとはかぎらない
・・・早く大人になりたいと思ったものさ。
熱いラブ・ソング、R&Bの意味を早く知りたいと思った。
今の大人は不細工でかっこ悪いけど、それは音楽を愛してないからだ。
でも、若い奴らも決してかっこ良くはないぜ。
つまり同じ穴の狢ってところさ。
対立もできなきゃ、リスペクトも贈れない中途半端な関係だ。
本当に口うるさいロックン・ロールや、口の匂いまでするようなリズム&ブルース。
そんな音楽は21世紀には無くなってしまうのだろうか。
ロボットやサイボーグが聴くような計算された音楽だけが市場にあふれている。

 では、また会おう。君は年寄りのヒヤミズと言うのかい? 
それとも負け犬の遠吠えってやつかな?
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(その5)に続く
↑ コチラ



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