2013年12月28日土曜日

【社説】安倍首相の靖国参拝は日本の戦略的負担に (WSJ)




WSJ
【社説】安倍首相の靖国参拝は日本の戦略的負担に
2013年 12月 28日 11:21 JST 更新

 安倍晋三首相は26日、物議を醸す行動に出た。就任1年の節目に、250万人の戦没者を祀る靖国神社を参拝したのだ。戦没者には、大日本帝国軍の暗黒時代を象徴する東条英機元首相ら14人のA級戦犯も含まれる。安倍首相の靖国参拝は、中国、韓国、米国という奇妙な連合による批判を招き、終戦から70年近く経ってなお、東アジアでは微妙な政治情勢が続いていることを浮き彫りにした。

 メディア各社が陸空から追跡する中、正装であるモーニングに身を包んだ安倍首相は、靖国神社の入り口で一礼した後、本殿に上がって参拝した。首相は参拝後に発表した談話で「靖国神社の参拝については、戦犯を崇拝するものだと批判する人がいる」との認識を示したうえで、「二度と再び戦争の惨禍に人々が苦しむことの無い時代を創るとの決意を伝えるため」に参拝したと説明した。また、その考えは「過去への痛切な反省の上に」立つものであり、「国内および諸外国の」戦没者に祈りを捧げたと述べた。

 安倍首相は「中国、韓国の人々の気持ちを傷つけるつもりは全くない」と強調したが、それは口で言うほど簡単なことではない。参拝後数時間のうちに中国外務省は日本の駐中国大使を呼び、「日本の指導者が戦争被害を受けた中国や他のアジア諸国の人々の感情を容赦なく踏みにじったことに強い怒り」を感じると抗議した。また、韓国の報道官を務める劉震竜文化体育観光相も「嘆きと憤怒を禁じ得ない」と強く反発し、米国は「日本の指導者が近隣諸国との緊張を悪化させるような行動を取ったことに失望している」との声明を在日米大使館のウェブサイトに掲載した。

 現職の首相として2006年以来初めてとなる安倍首相の靖国参拝は、日本の軍国主義復活という幻影を自国の軍事力拡張の口実に使ってきた中国指導部への贈り物だ。中国政府は、対外的には尖閣諸島の日本の領有権を積極的に脅かし、中国の軍事費に比べればわずかに過ぎない日本の防衛予算の増額に強く反発している。一方、対内的には一党体制の正当性を強化すべく、反日ナショナリズムをあおっている。中国では26日、共産主義国家建設を指導した毛沢東氏の生誕120周年が祝われたが、毛氏が追求した政策では何千万人という人々が死亡した。

 今後、中国の日系企業に対する暴動や製品の不買運動などに注意する必要があり、こうした反日運動は政府による暗黙の支援を受けている場合が多い。北京の日本大使館は中国の在留邦人に向け、「対日感情の悪化が懸念される」として行動や言葉使いに注意するよう喚起するメールを出した。

 一方、韓国は中国とは状況が異なる。日本同様に自由民主主義国である韓国は、無法な暴動よりも外交的に冷たい態度を取ることで日本への敵意を表す可能性が高い。しかし、自己主張を強める中国への対処、とりわけ中国の覇権を阻止できる可能性が最も高い裕福な米同盟国間の協力を損なうことになるため、そうした外交的不和がもたらす影響は極めて大きなものになる。

 これは、靖国参拝の重大な側面だ。日本政府の一部有力政治家が、個人的信仰、政治的迎合、またはその両方のために、化学兵器や性的奴隷など戦時の残虐行為の事実をごまかし続けるだけでも大きな問題だ。だが、真実に反する行為によって、志を同じくする国が平和で自由主義的な地域秩序を推進できなくなる時、それは日本にとって戦略的負担となる。

 日本政府は将来的に、靖国神社の黒い闇に染まっていない新たな非宗教的戦没者慰霊碑の建立を検討することが必至となるだろう。そうなった時、独裁主義的な中国の脅威について明確に認識している安倍氏はこの戦略的負担を念頭に置くかもしれない。

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