2014年10月30日木曜日

チェック : 密売も経済活動!? 欧州、GDPに算入 「統計の信頼低下」指摘も (毎日新聞) : 売春は民間人権団体の調査から、売春従事者の数を6万879人(2009年)と推計。1人あたりの売春回数を週25回、1件の報酬を67ポンド(約1万1700円)と設定し割り出すという。

チェック:密売も経済活動!? 欧州、GDPに算入 「統計の信頼低下」指摘も
毎日新聞 2014年10月29日 東京夕刊

 違法薬物の密売、売春、酒・たばこの密輸……。こんな非合法な行為を「経済活動」と呼んだら、普通は不謹慎と思われるだろう。だが、英国など欧州各国は、今秋から地下経済の活動が生み出したお金を算定し、国内総生産(GDP)の統計に反映させ始めた。当局は「経済規模を正確に統計に反映させるため」とするが、専門家からも戸惑いの声が上がっている。【ロンドン坂井隆之】

 「売春など違法行為のGDP算入は、欧州連合(EU)の基準改定で9月から導入されました。全ての加盟国が従う義務があります」。英国家統計局広報担当のルーク・クロイドン氏は説明する。ルールで縛るのは「お金」の問題が絡んでいるためだ。「EUが加盟国から集める拠出金などは、GDPが算定根拠になっています。統計がばらばらだと不公平が生じかねません」(クロイドン氏)

 では、なぜEUは地下経済の算定が必要と判断したのだろう。実は欧州では個人間の売買春を処罰の対象にしていない国が大半だ。ドイツやオーストリアなどは売春従事者を保護するため、登録制にして合法化している。少量の大麻使用に刑罰を科さず、事実上黙認している国もオランダなど複数ある。これらの国では従来、売春や一部の薬物取引を統計に含めており、EUは合法か違法かに関わりなく、一律にGDPに算入することでばらつきを無くす判断をしたわけだ。

 それにしても「地下」に潜っている活動を、一体どんな方法で計算するのか。

 英国の場合はこうだ。対象となる薬物は大麻、ヘロイン、コカインなど6種類。内務省の犯罪統計から国内の「使用者数」を推計し、国連が調査している末端価格を用いて「売上高」を算出。輸入(密輸)額や国内の製造費用を差し引いた額をGDPに算入する。一方、売春は民間人権団体の調査から、売春従事者の数を6万879人(2009年)と推計。1人あたりの売春回数を週25回、1件の報酬を67ポンド(約1万1700円)と設定し割り出すという。

 この結果、2009年の英国のGDP押し上げ効果は、GDPの0・7%分にあたる総額97億ポンド(約1兆6850億円。薬物44億3000万ポンド、売春52億7000万ポンド)に達した。過去にさかのぼって計算し直すので成長率が急上昇するわけではないが、財政の健全度を示す「政府債務残高の対GDP比」が低下するなど、「棚ボタ」効果が生じるのは確かだ。

 ドイツのシンクタンク「労働の未来研究所」の推計によると、売買春や麻薬取引などの犯罪行為を除いても、政府が把握していない非申告の地下経済の規模は米国でGDPの9・1%、日本でも11%、最も高い南米ボリビアは66%に相当するという。「地下経済」は無視できない規模といえるが、日米などが追随する動きはまだ出ていない。

 欧州でも統計上とはいえ違法行為を通常の経済行為と並べることに違和感を指摘する論調もある。スタンダード・チャータード銀行エコノミストのトーマス・コスターグ氏は「理論上の数字が加わることで、経済統計に対する世の中の信頼が低下する恐れがある」と指摘している。



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