2016年1月16日土曜日

波の音   (茨木のり子)

波の音          茨木のり子


酒注ぐ音は とくとくとく だが
カリタ カリタ と聴こえる国もあって

波の音は どぶん ざ ざ ざァなのに
チャルサー チャルサーと聴こえる国もある

澄酒(すみざけ)を カリタ カリタ と傾けて
波音のチャルサー チャルサー 捲き返す宿で

一人 酔えば
なにもかもが洗い出されてくるような夜です

子供の頃と少しも違わぬ気性が居て
哀しみだけが ずっと深くなって


                      詩集『自分の感受性くらい』(花神社 1977)より




「自分の感受性くらい」 (茨木のり子 詩集『自分の感受性くらい』) ; 自分の感受性くらい 自分で守れ ばかものよ


「倚(よ)りかからず」 (茨木のり子 詩集『倚りかからず』より) : もはや できあいの思想には倚りかかりたくない ・・・ じぶんの耳目 じぶんの二本足のみで立っていて なに不都合のことやある


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