2017年1月20日金曜日

世界に知れ渡った「歴史修正主義ホテル」APAの正体(前・後編) ; アパホテルはなぜトンデモ極右思想の宣伝装置になったのか? 「北朝鮮のよう」と言われた経営者一族のホテル私物化と恐怖支配 / 「南京虐殺はなかった」アパホテル反論の“嘘と詐術”を検証する! そして、安倍首相とのただならぬ関係とは?


(略)

 いまさら言うまでもないが、「南京事件がなかった」というのは、保守系の学者でさえ「ありえない」とするトンデモ論だ。しかし、元谷代表はそれを平気で主張するばかりか、張作霖爆殺事件から日中戦争開戦までを、なんと「コミンテルン」の仕業だというのである。こちらもまた、当時の歴史的背景がまったくわかっていないフリーメーソン並みの陰謀論として有名な主張だが、元谷代表の暴走は止まらない。

〈先の大戦の遠因は、メディアのせいでユダヤ人を敵に回してしまったせいだ〉などと、今度はユダヤ陰謀論を展開したうえで、なんと他国への先制攻撃ができるよう憲法を改正せよ、と主張し、こう安倍政権礼賛を展開するのだ。

〈防衛力だけでは攻撃力の二十倍もの軍事力が必要になる。本来攻撃こそが最大の防御なのだ。攻撃的な兵器も保有できるように憲法改正を行うことは必須だろう。〉

〈安倍政権は十年以上続く長期政権を目指し、日本を立て直し、誇れる祖国・日本の再興を果たして欲しい。(中略)中国、韓国にしっかり対応していくためにも、安倍政権が長期政権となるべく、私も最大限のサポートをしていくつもりだ。〉

 読めば読むほど、そのネトウヨ脳っぷりにくらくらしてくるが、それにしても、アパホテルはなぜ、こんなトンデモ歴史修正本の宣伝をしているのか。もちろん、それはグループ総帥の元谷氏の意向だろう。

 元谷氏は石川県小松市で信用金庫の営業マンから、マンション事業を立ち上げ、いまや400以上のホテルを配下におさめる一大グループをつくりあげた立志伝中の人物。しかし、その経営手法は、スタッフを最小限にして経費を極限までカットするというかなり強引なもので、2007年には2棟のホテルで耐震偽装が発覚したり、マンションからレジオネラ菌が検出されるなど、ずさんな管理を物語るトラブルも頻発してきた。ホテルの消防法違反やテナントビルの計量法違反を指摘されたこともあるし、2000年には出入りの業者にディナーショーのチケットを押し付けたことで、公正取引委員会から独占禁止法に抵触するとの警告を受けたこともある。

 しかも、同グループが有名なのは、元谷氏はじめ一族による会社の私物化と恐怖支配だ。「週刊文春」(文藝春秋)2008年1月3日・10日号には、「あの会社はまるで北朝鮮のようだ」という元従業員の証言とともに、元谷氏とその息子であるホテル専務の拓氏のブラック労働強制やパワハラがこれでもかと暴露されている。朝礼では「アパにふさわしくない人物がいる」と名指しで攻撃される、社員が判子を求めると目の前でわざと書類を落として拾わされる、さらに、アパの本社社員は新年、西麻布の元谷家を訪れ、元谷氏の孫にひとり2000円のお年玉を渡さなければならない、という信じられないエピソードまで明かされていた。

「取引相手にもかなり無理を強要して恨まれているようです。過去には、業者から恨まれて、本社ビルに糞尿を撒かれたという事件もありましたし、残業代未払いの告発などもあった。ワンマン経営のブラック企業と言っていいでしょうね」(経済ジャーナリスト)

 そして、このワンマン経営者がある時期から声高に叫び始めたのが、くだんの「先の戦争は悪くない」「南京虐殺も慰安婦も捏造だ」「日本は改憲すべきだ」という主張だった。

 ブラック企業経営者が、インタビューなどで極右・歴史修正主義的主張をするケースは珍しくないが、元谷氏は個人的に口にするだけでなく、アパグループの金と組織力を使ってその政治主張をバックアップし、社員や関係者にその思想を押し付け始めたのだ。

 手始めはグループの機関誌「Apple Town」で、保守論客と対談したり、極右的主張を書き連ねた時評エッセイを執筆し始めたことだった。アパグループでは一時、従業員には毎月、その感想文を提出させることが義務付けられていたという。

 そして、元谷氏はこの時評エッセイを一冊にまとめて『報道されない近現代史』(産経新聞出版)なる著書を出版するのだが、その際に、懸賞総額500万円の「真の近現代史観 懸賞論文」なる表彰制度を創設。2008年の第1回目は、当時、自衛隊航空幕僚長だった田母神俊雄氏の論文「日本は侵略国家であったのか」に最優秀賞を授与した。

 この論文は前述したホテルに置いてある『理論 近現代史学II 本当の日本の歴史』に書いてある内容とほぼそっくりの歴史修正主義とコミンテルン陰謀史観が書き連ねられている本で、現役の幕僚長がこんな偏向論文を書いたことが問題になり、周知のように田母神氏は更迭されてしまう。

 しかも、この田母神氏のアパ懸賞論文受賞は、出来レースだったのではないかとも指摘されていた。

「もともと、元谷氏と田母神氏は、アパ懸賞論文以前から非常に親密な関係にありました。二人の出会いは1999年、元谷氏の故郷・石川県の航空自衛隊小松基地に田母神氏が空将補として赴任したとき。田母神氏に惚れ込んだ元谷氏は小松基地の後援会会長に就任、その年から何度も『Apple Town』で対談、意気投合しています」(全国紙社会部記者)

 さらに、田母神氏がアパ論文の大賞を受賞する約1年前の07年8月21日には、元谷代表が小松基地でF-15に体験搭乗、実際に空を飛んでいたこともわかっている(ちなみに、そのときの写真が著書『誇れる祖国日本復活への提言〈II〉』に自慢げに掲載されていた)。

 もちろん民間人の体験試乗は異例中の異例。元谷氏は普通は乗れない戦闘機に搭乗させてもらったお礼に、田母神氏に賞を獲らせ巨額懸賞金を与えたのではないか、という見方が流れたのだ。

(略)

 ところが、この世界中に日本の恥をさらした結果にも、元谷代表とアパグループは反省する様子はない。それどころか、17日17時頃、アパグループは公式サイト上で、今回の国内外からの批判に対する“反論声明”を公開。書籍撤去の拒否を明言し、逆に〈末尾に本書籍P6に記載しています、南京大虐殺に関する見解を掲載いたしますので、事実に基づいて本書籍の記載内容の誤りをご指摘いただけるのであれば、参考にさせていただきたいと考えています〉と挑発したのだ。

 このアパグループの開き直りについて、「アパホテル、偉い!!」(作家の百田尚樹氏)、「アパホテル、さすがです!」(杉田水脈前衆院議員、なお杉田氏はアパ懸賞論文の第7回大賞受賞者)など、いつもの歴史修正界隈が小躍りし、ネトウヨも「アカヒ新聞!!歴史の事実に基づいて、正確な資料と共に反論してみろ(笑)」「逃げまくるパヨク、出てこい!」などとノリに乗っている。

(略)


 (略)

 しかも、強調しておきたいのは、これが、単に民間のネトウヨワンマン経営者の暴走、という話ではすまないことだ。元谷代表はこの国の政界に食い込み、日本の最高権力者である安倍首相ときわめて親密な関係にあるからだ。

 たとえば、2007年11月に盛大に催された元谷代表の次男夫妻の結婚式には、政界からも森喜朗元首相、中川秀直元自民党幹事長ら錚々たる面々が駆けつけていた。元谷代表は森氏と同郷の石川県小松市出身。1986年、元谷氏は地元の政治家や財界人を集めた会員組織「小松グランド倶楽部」を結成したのだが、そのとき最高顧問に就いたのが森氏で、2003年にはアパグループの機関紙「Apple Town」で対談も行い、元谷代表の著書の出版パーティの発起人を森氏が務めるまでになった。そして、アパグループは森氏との蜜月を機に政界に人脈を広げ、その子分である安倍晋三と関係を深めていったのだという。

 実際、05年10月12日、元谷代表の自宅で行われた「日本を語るワインの会」なる会合に、官房長官に就任する直前の安倍氏が出席していたことを、「週刊ポスト」(小学館)06年9月29日号が写真付きで報じた。また、元谷代表の妻でアパホテル社長の芙美子氏が旧森派議員のパーティに参加し、安倍氏とツーショット写真を撮っていたことも発覚した。

 そして極めつきは、安倍氏の秘密後援会「安晋会」の存在だ。当時メディアを賑わせていた姉歯・ヒューザーの耐震偽装事件で、耐震偽装マンションを販売したヒューザーの小嶋進社長が、国会証人喚問で国交省への事件もみ消しの働きかけを、当時官房長官だった安倍氏の秘書・飯塚洋氏に依頼していたことを暴露。そのとき、小嶋社長は「安晋会」に入っていたから、とその関係を説明したことがあった。「安晋会」には小嶋社長の他にも、吉村文吾・AIG株式会社会長や前田利幸・前田興産代表取締役社長、そしてライブドア事件にからみ沖縄で怪死を遂げた野口英昭氏が副社長を務めていた、エイチ・エス証券の澤田秀雄社長(エイチ・アイ・エス会長)など、実業界の実力者が集結し、様々な疑惑が報じられたのだが、実は、その「安晋会」の副会長を務めていたのがアパグループの元谷代表だったのだ。

 そんなことから、当時、姉歯・ヒューザー事件に続いて発覚したアパホテルの耐震偽造事件では、偽装が発覚後も行政のメスが異様に鈍かったことから、政権とグルになった隠ぺい工作があり、そこに元谷代表と安倍首相の個人的な親密さが関係しているのではないかとの見方が広がったこともある。

 結局、このアパホテルの耐震偽造事件は、隠蔽疑惑が解明されないまま風化していったが、その後も元谷代表は、安倍首相の有力な支援者であり続けている

 今回、アパホテルに設置してあることで問題となった著書『理論 近現代史学II 本当の日本の歴史』には、こんな一節がある。

〈安倍政権は十年以上続く長期政権を目指し、日本を立て直し、誇れる祖国・日本の再興を果たして欲しい。そして自ら招致に成功した東京オリンピックの開会式で、安倍首相が「君が代」と共に開会宣言を行うのが理想だ。中国、韓国にしっかり対応していくためにも、安倍政権が長期政権となるべく、私も最大限のサポートをしていくつもりだ。

 そして、アメリカのAP通信はこの一件を紹介する記事の中で元谷代表のことをこう紹介した。

〈元谷は、安倍の声高な支持者であり、与党自民党の超保守派と結びついている。彼は複数の講演を主催し、主要な歴史修正主義者やイデオローグ、政治家を招いて講師にしている。〉

 トンデモ陰謀史観に基づく極右歴史修正主義を世界に発信したのはただの企業経営者ではない。この国の総理大臣がその人物と深くつながり、その主張にも大きな影響を与えていることを、私たちはしかと認識するべきだろう。








0 件のコメント: